“清潔な水”はないの?

翻訳学校の課外講座に通っている。
先生がとにかくすごい人で、言葉への感覚が鋭く、日米両方の文化や歴史にも精通されていて知識が豊富。
そんな人に教われるから、楽しくてしょうがない。
一方でフィードバックが、すごーーーく気になる。
英語の解釈について指摘されることももちろんなのだが、
日本語表現について何か指摘されると、私は夜も眠れないくらい悔しい。
日本語を書いて、お金をいただいているのだから、当たり前だけど。

先日課題へのフィードバックをいただき、そこで指摘されたのが、
“清潔な水”なんて日本語はない
というもの。

もう授業も耳に入らないくらい、
マジ?マジ?ないの?清潔な水、ないの???
となってしまった。

早速帰ってきて、辞書をひく。
まずは、てにをは辞典。

【清潔】▲な 衣服。オフィス。環境。靴下。公衆便所。シーツ。しゃべり方。食卓。寝台。人物。姿。住い。タオル。テーブルクロス。トイレ。ナプキン。匂い。白衣。ハンカチ。人柄。広場。ふきん。服。布団。ベッド。店。浴衣。ワイシャツ。
『てにをは辞典』小内一(編)三省堂より

フムフム、確かにないね。
じゃあ、「清潔な状態」ってそもそも・・・?

【清潔】ばいきん・きたないものやよごれを取り除き、きれいにしてある様子だ。
『新明解国語辞典』三省堂より

なるほどね。
ということは、日本で暮らす限り、普段の生活で「清潔な水」ということはないかもしれない。
水道をひねれば、出てくるの「水」は必ず、「清潔な水」だから。
わざわざ「清潔な水」なんて言わない。

でもこの地球には、ばいきんや汚いものを取り除いた“清潔な水”が、貴重な地域もあるだろう。
そうしたところでも「清潔な水」とは言わないのだろうか。
水道がなかった時代には??

そこで「清潔な水」で検索をしてみると、やはり出てくるのは、
ユニセフなど世界の安全や衛生などを支援する機関が多い。
ニュースでは朝日新聞のデジタル版『朝日新聞DEGITAL』でも、「清潔な水」という表記をしていたが、ここでもやはり

~発展途上国の少女たちが清潔な水、食料、医療、教育、暴力と搾取からの保護を得られるための国際的なキャンペーンなどを支援するなど~
オーデマ ピゲがレディースモデルの新作を発表

という文脈。

なお指摘のあった課題文の、文章の背景は、1860年代のアメリカ。地質と地理を調査するために、政府から探検隊が送り込まれた西部の地。
ということになっている。
私の結論としては、やっぱり「汚い水」があれば、「清潔な水」も存在しただろうということ。
ただ、ライターとしては、人がひっかかるような文章を書いてはいけない。
それも、言葉のプロである翻訳家の先生が気になるような文章では、いけない。
どんなに自分が当たり前と思っていても、辞書をひくことを怠らず、常に「これは正しい日本語だろうか」と自問自答しながら、少しでも多くの人にわかりやすく伝わる文章を書きたいと、改めて思った出来事でした。

〜補足〜
実はこの後、この件に関して先生直々に説明をいただけた。
まず「清潔な水」という日本語があるかないかで言えば、あるということ。
ただ課題の英文に対して、ふさわしい訳語ではなかったということ。
納得。

そしてもう一点は、私が引用した『朝日新聞DEGITAL』の記事について。
これは「英語で出されたリリースを翻訳したものである可能性があり」「日本語の例として引くには、ちょっと説得力がないかも」しれないということ。
なるほどー。
これは翻訳家を志すものとしては、ちょっと複雑でもあります。
もちろん先生は、翻訳だから不自然な日本語でもしょうがない、と言っているわけではありません。
不自然な日本語、ダメ絶対。です。
でも翻訳記事には、そういうリスクがあるということを知っておかないといけないですね。
ウェブ版とはいえども、朝日新聞の記事だから大丈夫と思っていたけれど、今後は留意しようと思います。
ありがとうございました。

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